衝撃波は,媒体の音速を超えて伝播する圧力波です.空気中はもちろん,水中や固体中であっても,爆発や極めて強い衝突によって発生します.航空宇宙分野では,高速飛行する航空機やロケット,また,宇宙から地球に帰還するカプセルや大気のある他の惑星に突入する探査機の周囲で発生します.
火星探査機など,大気のある惑星に探査機を着陸させる際には,まず,惑星大気圏への突入(Entry),それに続く降下(Desent),そして惑星表面への着陸(Landing)が必要となり,一連の過程をEDLと呼びます.降下過程では,空気力学的な効果を利用して減速する空力減速装置(Aerodynamic Deceration Device)が利用され,代表的なものにパラシュートがあります.
火星のような地球に比べ小さく,大気密度が小さい惑星では,効率的に減速できず,パラシュートの展開を,超音速状態から行う必要があります.これは,パラシュートの利用法としては,地球大気中でのものと大きく異なります(地球大気中では亜音速まで減速した後に展開).超音速状態でパラシュートが展開すると,パラシュート前面とペイロード(探査機)とを結ぶサスペンションライン上で衝撃波の振動が発生し(図1),最悪の場合,パラシュートが潰れるなどの機能不全を発生し,安全な減速と降下ができません.このような衝撃波振動は,パラシュートと同様に飛行方向に開いた空洞を有する物体(前向き空洞)の前面で発生します(図2).前向き空洞周囲での衝撃波挙動の研究は,パラシュート以外にも航空宇宙分野では歴史的に多くの研究があります.代表的なものは,超音速機のエンジンの空気取入口でのBUZZ(バス)と呼ばれる衝撃波の振動現象があります.BUZZが発生すると,最悪の場合,エンジンが停止し,飛行の安全が脅かされます.
水書研究室では,惑星探査機用超音速パラシュートまわりの衝撃波振動をはじめとして,航空宇宙機周囲での衝撃波振動に関する実験と数値解析(図3)による研究に取り組んでいます.
超音速航空機のエンジン空気取入口(インテイク)から取り入れる空気は,機外の超音速状態から,エンジン内では亜音速まで急速に減速されます.そのため,インテイク部には様々な形状の衝撃波が発生します.衝撃波を通過すると気流がもつ静的エネルギの指標である全圧が順次低下します.そのため,インテイクの形状は,飛行条件に対して全圧損失を最小限とする最適な形状に設計する必要があり,また,飛行中は衝撃波の発生状態を安定に維持する必要があります.
一方,インテイクで発生する衝撃波は,安定した飛行では,最適な形状となりますが,航空機の急激な機動(マニューバ)や外的環境の不連続な変化によって,不安定化し,時には振動や,不始動状態を発生します.特に振動現象は,BUZZ(バス)と呼ばれ,エンジン停止などの原因となり,安全な飛行にとって大変危険な現象です.
水書研究室では,衝撃波管や反射衝撃風洞(図1)を使い,超音速気流を発生させ,超音速インテイク模型(図2)に気流を流入させる条件を変えることで,不安定な状態を人為的に作り出し,不安定時のインテイク周囲での気流状態を実験的また数値流体解析的に模擬した研究を進めています.実験では,シュリーレン法と呼ばれる光学的可視化計測に加え,インテイク表面の圧力変化を画像として取得できる感圧塗料(Pressure Sensitive Paint, PSP)を利用しています.特に,陽極酸化型PSPは,時間応答性が良く,100万分の1秒といった極めて高速な計測に成功しています.図4は,シュリーレン法とPSPでの圧力変化を比較した実験結果です.超音速気流は,画面左から右向きに流れています.上段は,安定した流れ場の状態,中段は,不安定な状態での結果です.下段は,PSPによる圧力可視可視化結果で,衝撃波の不安泰な挙動による圧力の変化が明確に理解できます.これらの成果は,次世代超音速機の研究に貢献することができます.